回路入門記事は半年以上更新していませんでしたが、今回は番外編としてiPhone用のアプリ、e-scope 3-in-1(Appストアにて販売中)の活用方法に関する記事です。
e-scope 3-in-1はオシロスコープ、FFTアナライザ、信号発生器の3つ機能を持ったアプリです。
iPhone内蔵マイクだけでもいろいろなことができますが、iPhoneに外部信号を入力できるようにすると、さらに活用範囲が広がるので、今回はまず、iPhoneに外部入力できるようにするケーブルを製作します。
*ケーブル製作
iPhoneのヘッドホン端子は下図のように4極になっており、一番下の端子がMic入力兼マイクユニット電源になっています。
外部入力用にケーブルを用意する必要がありますが、今回は入手のしやすさから100円ショップCanDoで販売しているビデオケーブルを流用することにします。
このケーブルはポータブルDVD等から音声信号と映像信号を取り出すためのものです。
上記写真にあるように4極プラグは配線が統一されていないようですが、下から二番目が共通(GND)になっているものであれば、今回の用途に使用可能です。
CanDoのケーブルをiPhoneに接続した場合、白端子がL出力、黄色端子がR出力、そして赤色端子がマイク入力になります。
ただし、そのまま接続した場合、出力は内蔵スピーカーからヘッドホン端子出力に切り替わりますが、マイクは内蔵マイクが有効なままですので、外部入力化のためには、後述する回路を追加する必要があります。
このケーブルの使用上の注意点としては、一番下の端子が下図のように金属の台座と一体になっていることから、絶縁の工夫が必要になります。
次に、iPhoneのマイク端子ですが、外部マイクとしてはECM(エレクトレットコンデンサーマイクロホン )の接続を想定しているようです。
マイク端子にECMユニットを接続したときのイメージは下図のようになります。
ECMユニットは内部にバッファー用のFETを内蔵しており、オープンドレインとなっています。
一方iPhone内部では電源(実測値は2.7V)に接続された負荷抵抗の一端がマイク端子に接続されています。
マイクユニットをマイク端子に接続すると、FETの電流がiPhone内部の負荷抵抗に流れ、マイク端子の電圧が低下します。iPhoneはこの電圧低下を検出し、内蔵マイクから外部マイクに切り替えるようになっているようです。
このマイク端子はリモコン端子も兼用となっており、このマイク端子の電圧変化を利用して制御していると思われます。
マイク端子を外部入力として使用するためには、このマイク端子の電圧をマイクユニットが接続された時と同様な電圧にする必要があります。そこで下図のような回路を追加します。
iPhone4S以前の機種用の定数 ↑
R1(6.2k)がマイク端子の電圧を下げて外部入力モードに切り替えるための抵抗です。
R2(110k)は入力を減衰させるための分圧用抵抗です。
この定数でe-scope 3-in-1のオシロスコープモードの感度が(mv/Div)表示とほぼ同じになります。
もし、感度を調整したい場合はこのR2の抵抗値を変更してください。
上記感度はiPhone4Sを使用した場合です。
iPhone3Gs、第三世代iPadもほぼ同様の感度でしたが、iPhone5Sに上記定数のケーブルを使用すると、約10dB程度感度が低くなるようです。
他の測定器を使用できる人は、入力に100mVrmsの信号を加え、FFTモード(信号はFFT最適化使用)で表示が-20dBになるように微調整するのがよいでしょう。
また、この定数でクリップしないで入力できるレベルは2Vpp程度なので、もっと大きな信号を観察したい場合や、入力インピーダンスを大きくしたい場合は、たとえばR2を10倍にできるような抵抗を追加し、スイッチで切り替えられるようにすると使いやすくなります。
C1は直流カット用のコンデンサです。容量値は0.1uF以上であればどんな値でもよいのですが、ケミコン等極性のあるコンデンサを使用する場合は、2つのコンデンサの極性を互いに逆に接続したものを使用してください。
コンデンサの後には、ワニ口クリップ等、使いやすいものを接続してください。
次の図はiPhone5s用に定数を変更したものです。
そのままでは入力インピーダンスがだいぶ小さくなってしまうので、下図のように入力感度設定スイッチを入れたほうが良いと思います。
スイッチオープンで感度は20dB下がりますが、入力インピーダンスを10倍程度にすることができます。
iPhone5以降の定数 ↑
もし入力に過大な信号が印加される恐れがある場合は、下図のようにコンデンサと保護ダイオードを追加してください。ダイオードはどんな品番のものでも大丈夫です。
白と黄色の出力端子にもワニ口クリップを接続してください。
直結でもかまいませんが、出力端子を電源等にあやまって接続すると、iPhoneにダメージを与える危険性があります。
誤接続に関し自身の無い人は、下図のように保護用の小抵抗や直流カット用のコンデンサを入れてください。
*動作確認
ケーブルの製作が終わったら動作確認を行います。
4極プラグをiPhoneに接続し、ケーブルの入力端子と出力端子を接続してください。
e-scope 3-in-1を起動し、オシロスコープモード、信号発生器はサイン波、周波数400Hzにしてください。
感度は100mV/div、2.0ms/div あたりすると見やすいでしょう。
iPhoneのボリュームを上げて正弦波が表示されることを確認してください。
Triggerモードにすると波形が止まって見やすくなります。
次にFFTモードに切り替えてください。下図のように表示されればOKです。
ここで一度信号をOFFにします。
次は周波数特性の確認をします。まずは通常のSweep信号による確認です。
分解能が高いとSweep時間を長くする必要があるので、分解能はdf=22Hzのモードにしてください。
信号種別はSweep LinにしてSweep時間は120(秒)に設定してください。
その後、ピーク保持ボタンを押してボタン表示が赤くなっているのを確認します。
準備ができたら、ON/OFFボタンを押して、測定をスタートします。
2分後に下図のような表示になると思います。200Hz以下でレベルが下がっているのはiPhone内部のマイクアンプ経路にローカットフィルターが挿入されているためです(LowBoostモードにすることで、フラットな特性に近づけることもできます)。
次にFFT同期Sweepモードで同様に周波数特性を測ってみます。
Sweep時間を0に設定します。
この状態でON/OFFボタンを押してください。下図のような結果になるはずです。
見やすくなるように感度を上げています。(FFTモードでは上にスワイプすると感度を上げることができます)
感度を上げすぎてクリップすると正確な測定ができないので、単一信号でクリップしていないことを確認してください。(クリップすると急激に高調波が増加します。)
このようにFFT同期Sweepモードは周波数特性をリアルタイムに確認することができます。
*外部マイク接続
先ほどのケーブルにECMユニットを接続することもできます。
オーディオ装置の周波数特性を測る時に、iPhone内蔵マイクでは測定しにくい、といった時に使用できます。
http://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-02303/ にあるようなマイクが使用可能です。
もう一本CanDoのケーブルを用意し、極性に注意して赤色端子のケーブルにハンダ付けしてください。
注意:製作したケーブルで交流100Vの部分等に触れるのは危険ですので、絶対にやらないでください。
免責事項:本記事の利用は利用される方の自己責任で行って頂き ますようお願いいたします。ご利用にあたり、万が一不具合、トラブル 等が発生した場合、一切の責任を負いかねますのでご了承下さい。
株式会社e-skett様
はじめまして、神奈川で音響業者を営んでおります中村と申します。
以前の記事に対してのコメントで失礼致します。
当方、音響の現場でiphon6を2台使って2会場を中継のように結ぼうと思い、イヤホンマイクのイヤホンL/Rをミキサーに入力しスピーカー出力へ、逆にミキサーのAUX出力をマイクへ送ろうと思い4極のフォーンからXLRへの変換BOXを作製致しました。しかし、記事にもある通り音声は出力出来たのですがマイクが携帯の内蔵マイクになってしまい、外部からの入力に切り替わりませんでした。チェックではマイクINに直接シュアーのSM58をさして確認を行いました。お恥ずかしながらハンダ付けは日常で行いますが、電気の知識があまりなくご説明のように外部入力に切り替わるよう抵抗をかけるという部分が私の頭では追いついていけませんでした。ミキサーのAUXをマイク入力する場合、どのような物を挟めば宜しいでしょうか。ご教示頂けると幸いです。現在作製したマイク入力はXLRで 1番にGND、2番にマイク+、3番はGNDとぶつけてあります。