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回路入門

LTspice24 Tips 6 周波数応答解析の進化

LTspice24では、周波数応答解析が簡単にできるようになりました。解析設定画面に、SW電源等の周波数特性解析に使用する、“Transient Freaquency Response”タブが追加されています。
また、電流フィードバック回路等の解析に使用できる、「4端子プローブ」素子も追加されています。

スイッチング電源の周波数応答を確認する方法

負帰還を使用したシステムでは、システムの安定性を確認するために、位相余裕等を調べる必要があります。
オペアンプや、シリーズ・レギュレータの場合はAC解析を行うことで、比較的簡単に位相余裕を確認できます。
ただし、スイッチング電源の場合は、AC解析では位相余裕を確認することができません。
スイッチング電源の周波数応答を確認する場合、まず、微小信号を注入してトランジェント解析を実施し、その微小信号に対する応答を調べます。そして、その微小信号の周波数を変えてトランジェント解析を実施し、応答を調べる、ということ繰り返し行います。最後にそれぞれの周波数に対する応答をまとめて、ループ利得や位相特性をグラフ化します。
LTspice24“Transient Freaquency Response”を使用すると、これらの一連の作業を自動的に実施することができます。

▼昇降圧DC/DCコンバータの周波数応答解析を実行する回路

下図は、図1昇降圧DC/DCコンバーの周波数応答を解析するための回路図です。出力(OUT端子)と帰還抵抗(R2)の間に「FRA素子」を挿入しています。「FRA素子」は、コンポーネント選択画面で、“FRA”を検索することで選択することができます。

昇降圧DC/DCコンバーの周波数応答を解析するための回路図
出力と帰還抵抗の間に「FRA素子」を追加する

FRA素子」のパラメータを設定する

次に、「FRA素子」を右クリックし、下図のようなパラメータの設定画面を開きます。
まず、“Start at Frequency”“End at Frequency”で周波数応答を測定する帯域を設定します。スタート周波数を低く設定するほど、トランジェント解析時間が長くなります。
次の行でオクターブあたりの解析ポイント数を指定します。解析ポイント数が多いほどなめらかなグラフが得られますが、解析時間は長くなります。
“Max # of Simultaneous Harmonics”で同時に注入する微小信号周波数の数を指定します。複数の周波数の信号を同時に注入することで、解析時間を短縮することができます。
その下が測定用微小信号の振幅です。表示されている画像のように、周波数によって振幅を変えることもできます。
最後に“Start Analysis at Time”を指定します。これは微小信号を注入して周波数特性の解析を開始する時間です。DC/DCコンバータの出力電圧が十分に安定する時間に設定します。

FRA素子」の設定画面
周波数応答の解析周波数範囲や注入信号の振幅等を設定する

“Transient Freaquency Response”解析を指定する

次に、解析の種類として、“Transient Freaquency Response”を指定します。
Cの解析設定画面で、右端の“Transient Freaquency Response”タブを選択します。設定できる項目は通常のトランジェント解析とよく似ています。
今回は、“Start external DC suppiy voltage at 0V”のみチェックを入れます。

LTspice解析設定画面
右端の“Transient Freaquency Response”タブを選択する

“Transient Freaquency Response”解析のシミュレーション結果

下図が時間応答のシミュレーション結果です。上段がFRA素子の両端電圧で、周波数応答を解析するための微小信号です。複数の周波数の信号を、同時に注入していることがわかります。下段が出力端子電圧です。微小信号の注入を開始する1ms時点では、安定した電圧になっています。

“Transient Freaquency Response”解析の時間応答のシミュレーション結果
FRA素子は、複数の周波数の信号を同時に注入している

下図は周波数応答のシミュレーション結果です。このグラフは、“Transient Freaquency Response”解析が終了すると、自動的に表示されます。
左側の縦軸がループ利得で、右側の縦軸が位相です。ループ利得が0dBになる周波数と、位相余裕も自動的に表示されます。

周波数応答のシミュレーション結果
ループ利得が0dBになる周波数と、位相余裕も自動的に表示される

なお、「4端子プローブ」素子の使用例を含んだ、様々な“Transient Freaquency Response”解析のサンプル・ファイルが用意されています。ツールバー・メニューの[File][Open Exsamples]から、Educational\FRAフォルダの中のサンプル・ファイルを開いて確認してみてください。

*この記事は、CQ出版社のLTspiceメールマガジンの記事「昇降圧DC-DCコンバータの効率と入力電圧/電流の関係」からの抜粋です。

LTspice24 Tips 5 ライブラリ管理方法

Tspice24では、個別部品ライブラリ更新時に、旧ライブラリ・ファイルに新しいライブラリ・ファイルを上書きすることで、更新速度を速くしています。
それに伴い、ユーザーがトランジスタ等のモデルを追加する方法が、変更になっています。

▼トランジスタ・モデル等の追加方法

以前のLTspiceでは、個別部品モデルを追加する方法として、特定のフォルダの中の、下記のようなライブラリ・ファイルを編集する方法がありました。
Documents\LTspiceXVII\lib\cmp\standard.bjt”
“%LOCALAPPDATA%\LTspice\lib\cmp\standard.bjt”
LTspice24では、これらのファイルの内容を変更することは非推奨となっています。
そのかわりに、“Documents\LTspice”フォルダの中に、“user.*”というファイルを作り、そのファイルにモデル情報を書き込むことで、個別部品モデルを追加することができるようになっています。
バイポーラ・トランジスタは“user.bjt”MOSトランジスタは“”user.mos”というファイル名のファイルを作ることになります。他にも、 (user.jft,user.dio,user.res,user.cap,user.ind,user.bead)といったファイルが使用できます。

2SC2712というトランジスタのモデルを追加してみる

ここでは、一例として、東芝の2SC2712というトランジスタのモデルを追加してみます。このトランジスタは、有名な2SC1815とほぼ同じ特性といわれているものです。
まず、東芝のwebサイトの2SC2712のページから、PSpiceモデルをダウンロードします。
ダウンロードしたzipファイルから2SC2712.libを解凍し、メモ帳で開きます。
次に、“Documents\LTspice”フォルダの中に、新規テキストファイルを作成し、ファイル名を“user.bjt”に変更してメモ帳で開きます。
そして、図Aのように、2SC2712.libの中の、“.MODEL”から、“.ENDS”前の行までを選択し、クリップボードにコピーします。
次に、メモ帳で開いた、“user.bjt”にペーストし、保存します。これで、2SC2712のモデルが使用できるようになります。

2SC2712.libをメモ帳で開き、“.MODEL”から、“.ENDS”の前の行までをコピーする

追加したモデルを使用する方法は、内蔵ライブラリを使用する時と同じです。
下図のように、トランジスタ・シンボルを右クリックし、[Pick New Transistor]をクリックします。
そして、表示されたモデル選択画面の、一番最後尾の、“2SC2712_BJT”というモデルを選択してOKボタンを押します。

トランジスタ・シンボルを右クリックして、追加したモデルを使用する

*この記事は、CQ出版社のLTspiceメールマガジンの記事「絶対温度に比例した電流を出力する2端子温度センサ」からの抜粋です。

LTspice24 Tips 4 波形ビューアの便利な機能

LTspice24では、シミュレーション結果を表示する、波形ビューア関係の機能が改善されています。
ここでは、改善された機能のいくつかを紹介します。

▼右クリック・メニューによるプロット・ペインの再配置

これまでの波形ビューアでは、新しいペインは上方向にしか追加できませんでしたが、LTspice24では、下方向にも追加できるようになりました。
波形ビューア・ウインドウで右クリックすると下図のようなメニューが表示されます。そのメニューで[Add Plot Pane Below]を選択すると、現在選択しているペインの下に新しいペインを追加することができます。
また、配置済みのペインも[Move Plot Pane Up]等で上下に移動することができます。

波形ビューア右クリック・メニューで、上下にペインの追加や移動ができる

.stepシミュレーションの変数の値の表示

.stepシミュレーションで定数を変化させたシミュレーションを行うと、何本ものグラフが描かれます。LTspice24では、それぞれのグラフの色と定数の値の関係をわかりやすく表示できるようになりました。
下図のように、波形ビューア右クリック・メニューで[Notes & Annotations][Annotate Steps]を選択すると、.stepで変化させた値の情報を、グラフの色に対応した文字色で、グラフ上に表示することができます。
表示したテキストは、自由に位置を変えることが可能で、見やすく配置することができます。また、そのテキストを右クリックして、表示内容を書き換えることもできます。

.stepで変化させた値の情報を、色別にグラフ上に表示

 

LTspice24 Tips 3 覚えやすくなったキーボード・ショートカット

LTspice24では、デフォルトのキーボード・ショートカットが変更されています。
また、キーボード・ショートカットの内容をファイルに保存したり、ファイルから読み出したりすることもできるようになりました。

▼新旧キーボード・ショートカットの比較

下図は、回路図作成時に使用する、主な、新旧キーボード・ショートカットの一覧です。
LTspice24のキーボード・ショートカットは、動作を表す英単語の頭文字を使ったものが多く、覚えやいすものになっています。

LTspiceXVIILTspice24のデフォルト・キーボード・ショートカット

▼キーボード・ショートカットの変更

かなり使いやすくなったキーボード・ショートカットですが、自分が使いやすいように変更することもできます。
下図のように、[Help][Keyboard Shortcut Cheat Sheet]を選択すると、キーボード・ショートカットの一覧が表示されます。

キーボード・ショートカットの一覧を表示する

表示されたキーボード・ショートカットの一覧ウインドウの、一番下にある[Edit Keyboad Shortcut]をクリックすると、 下図のような編集画面になります。
変更したいキーボード・ショートカットをクリックし、新しく登録したいキーを押すことで、キーボード・ショートカットを変更することができます。
また、編集画面の下のボタンで、キーボード・ショートカットをファイルに保存したり、保存したファイルを読み込むことができます。

キーボード・ショートカットの編集画面

*この記事は、CQ出版社のLTspiceメールマガジンの記事「車載機器に必須のバッテリ逆接続保護回路」からの抜粋です。

LTspice24 Tips 2 コマンド・アイコンの変更

LTspice24になってツール・バーのアイコンが大幅に刷新されましたが、これまで使い慣れたアイコンを使用したい人もいるかもしれません。そのような場合は、設定画面で従来アイコンに変更することができます。

まず、下図のように、歯車のアイコンをクリックして設定画面を開きます

LTspice24の設定画面の開き方

次に、設定画面で、[Operation]タブを開きます。そして、“Toolbar Style”[Legacy]に変更すると、図T3のように、従来タイプのアイコンに変更されます。また、“Background image”[Antikythera Mechanism]に変更すると、起動時の画像が従来タイプと同じになります。

設定画面でアイコンのスタイルを変更する

従来タイプのアイコンに変更したLTspice24

*この記事は、CQ出版社のLTspiceメールマガジンの記事「リチウムイオン・バッテリの充電電流の決め方」からの抜粋です。

LTspice24 Tips 1 主な改善点

2023年11月にLTspiceがバージョンアップして、 LTspice24になりました。ユーザ・インタフェースが改善され、シミュレーション速度も向上しています。

LTspice24の起動画面

■主な改善内容

  • ユーザ・インタフェースの改善
    • ツール・バーのアイコンと回路図編集画面マウス・カーソルの変更
    • 起動画面の背景画像の変更
    • デフォルト・キーボードショートカットの変更
  • 周波数応答解析の強化
    • 新しい4端子プローブ
    • 位相マージンのプロット
  • 波形ビューアの改良
    • 右クリックによるプロット・ペインの再配置 (上下に移動、上下に追加)
    • カーソルの追加/消去のためのメニュー項目
    • 等 多数

■シミュレーション速度改善例

使用するPCの構成やシミュレーションする回路によって、シミュレーション速度の改善量は変化しますが、LTC3625を使用した回路(本文図7)でシミュレーション時間を比較してみました。
下図がシミュレーション・ログに表示された実行時間です。LTspiceXVIIでのシミュレーション時間が41.5秒だったのに対し、LTspice24では33.8秒と20%程度速くなっています。回路の種類によっては、シミュレーション時間が半減することもあるようです。


シミュレーション・ログに表示された実行時間

■ツール・バー・アイコンの新旧比較

下図がLTspiceXVIIとLTspice24の、ツール・バー・アイコン対応図です。それぞれ同じ機能のアイコンを矢印で結んでいます。LTspice24では3つの新機能(シミュレーション設定、画面縦分割、電圧源)のアイコンが追加されています。

LTspiceXVIIとLTspice24の、ツール・バー・アイコン対応図

*この記事は、CQ出版社のLTspiceメールマガジンの記事「直列接続の電気二重層コンデンサをばらつきなく充電する」からの抜粋です。

電子回路の学習に役立つリンク集

電子回路の学習に役立つリンク集です。

CQ出版社からクイズ形式で電子回路の動作が学べ、LTspiceのサンプルファイルもダウンロードできる、メールマガジンが発行されています。
2014年の9月から始まり、毎年テーマを変えて現在10期目となっています。
過去のメールマガジンのアーカイブが下記URLにまとめられていますので、是非参考にしてください。

LTspice メール・マガジン・アーカイブs

 

(7)パスコン(バイパスコンデンサ)

アナログ回路になじみの無い、デジタル系の人たちも”パスコン”という言葉を聞いたことはあると思います。
今回は、そのパスコンの役割や動作を解説したいと思います。

電子回路の載ったプリント基板を見ると、大抵電源ラインとGNDの間にコンデンサがついています。
これは電源ラインの電圧変動を小さくして、誤動作や信号へのノイズ混入などを防ぐためです。
電源が理想電源であれば、どんなに負荷電流が流れても電源電圧は変動しませんが、実際の電源やプリント基板には抵抗や、インダクタ成分があるため、電圧変動が発生してしまいます。
今回もLTspiceでシミュレーションして確認してみます。
新しい回路図(schematic)を用意し、symbol2をクリックしてcurrentを選択し、下図のように配線します。
passcon
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(6)インダクタ(コイル)

今回はインダクタ(コイル)について説明します。
抵抗やコンデンサにくらべ、素子としては使われる機会の少ない素子ですが、その性質を理解しておくのは非常に重要です。

(5) コンデンサと時定数 では 電圧、電流、抵抗、コンデンサについて次のように書きました。

  • 電圧:電気の圧力、電流を流そうとする力で、よく水道の水圧にたとえられます。単位はV(ボルト)
  • 電流:電気の流れる量、水の流れをイメージするとわかりやすいかもしれません。単位はA(アンペア)
  • 抵抗:文字通り、電流の流れを妨げようと抵抗するものです。水道にたとえると、太いパイプは水が流れやすく細いパイプは水が流れにくい、ということです。単位はΩ(オーム)
  • コンデンサ:電気(電荷)を蓄えることのできる素子です。直流電圧を加えても電流は流れませんが、交流電圧を加えた場合は、電流が流れます。この電気を蓄える能力の単位はF(ファラッド)です。

コンデンサに習ってインダクタ(コイル)を定義すると

  • インダクタ:電流を蓄えることのできる素子です。直流電圧に対しては抵抗を持ちませんが、交流電圧に対しては抵抗を示し、周波数が高いほど電流が流れにくくなります。単位はH(ヘンリー)です。

(3) 抵抗と電流でも書いたように、上に書いた定義はかなりデフォルメしてあり、技術的に厳密な定義とは異なっています。
ある程度電子回路に慣れてきたら、ウィキペディア等で別の定義を確認してみてください。
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(5) コンデンサと時定数

今回はコンデンサに関する話題です。
(3) 抵抗と電流 では 電圧、電流、抵抗について次のように書きました。

  • 電圧:電気の圧力、電流を流そうとする力で、よく水道の水圧にたとえられます。単位はV(ボルト)
  • 電流:電気の流れる量、水の流れをイメージするとわかりやすいかもしれません。単位はA(アンペア)
  • 抵抗:文字通り、電流の流れを妨げようと抵抗するものです。水道にたとえると、太いパイプは水が流れやすく細いパイプは水が流れにくい、ということです。単位はΩ(オーム)

この要領でコンデンサについて追記すると、

  • コンデンサ:電気(電荷)を蓄えることのできる素子です。直流電圧を加えても電流は流れませんが、交流電圧を加えた場合は、電流が流れます。この電気を蓄える能力の単位はF(ファラッド)です。

ということになります。
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